転がり抵抗の正体

(ロードバイクの細いタイヤは軽量と、そして高圧を目指したかたちです)

なぜ高圧タイヤは転がりが軽いのでしょうか。そもそも転がり抵抗とはなんなのでしょうか。

タイヤでもボールでもよいのですがなにかしら丸い物体を平らな地面に転がすと、はじめは勢いよく転がりますがやがて速度が落ちてきて最後には止まります。このときに転がる物体を減速させるためにいくつかの力(抵抗)が働きますが、そのうちの一つがこの転がり抵抗です。(ほかの抵抗としては空気抵抗と、路面および物体が完全に平滑でないことによって物体が転がりながら上下動してしまうことによる運動エネルギーの損失とがあります。)

転がり抵抗はしばしば「タイヤと地面との摩擦による抵抗」と理解されていますがこれは誤解です。たとえばテフロンなどの極端に摩擦の少ない表面素材を使ったとしても、滑らずに転がっている限りはタイヤ内圧を下げていくことで転がり抵抗の大きな車輪になってしまいます。

転がり抵抗の正体は「タイヤの素材であるゴムや繊維が変形するときにおこるエネルギーの損失」なのです。タイヤは荷重がかかっていない状態では丸い輪郭をしています。これが地面に接触して荷重がかかったときにはその部分だけがつぶれて平らになります。転がっているタイヤ上の一点に着目して観察すると、

“接地前の丸い形状→接地中は平らな形状→接地後は再び丸い形状“

というように変形を繰り返していることがわかります。この変形がタイヤ外周の全体にわたって連続してひき起こされながら車輪は転がっていくわけです。

いっぽうゴムや繊維といったタイヤの素材を変形させる時にはエネルギーが必要です。このエネルギーは車輪が転がりながら前進する運動エネルギーからまかなわれます。転がる勢いが少しそがれながらタイヤがつぶれて平らになっていくのです。このとき使われたエネルギーのうち多くの部分は、タイヤ接地箇所のゴムや繊維がバネ状にたわみ、地面から離れたときには自ら反発して元の形状に戻ろうとする弾性エネルギーとして保存されます。しかしこの弾性エネルギーの保存は100%の効率ではありません。ゴムや繊維といった素材はいったん曲げられたあとでもとのかたちに復帰する際に比較的多くのエネルギーを熱として失ってしまうのです。

 このことを手軽に体験できる実験があります。手近な針金を用意して、同じ個所を連続して何度も曲げ伸ばししてみましょう。しばらく曲げ伸ばしすると、曲げを繰り返した個所が熱くなっているのがわかると思います。かなり発熱するのでヤケドに注意してください。この場合力を加えて曲げただけでとくに熱を加えたわけでもないのに針金が熱くなってきますが、それは曲げるエネルギーが熱に変化したのです。

もっともこの実験はタイヤの接地点で起こっていることと完全に同じ原理ではありません。タイヤのゴムや繊維は接地圧がなくなれば元の形に戻るような性質の変形(これを弾性変形といいます)をしているだけですが、針金を曲げたときには力を抜いてもそれだけではもとの形に戻らない性質の変形(これを塑性変形といいます)を起こしているからです。しかし加えた力の一部が熱に変わるという点では共通します。

このようにかけられた力に応じて物がいったん変形し、その後力が取り去られて自分から元の形状に戻る際に一部のエネルギーが熱として失われる損失を「内部損失」とか「ヒステリシス損失」といいます。この「ヒステリシス損失」が転がっている車輪を減速させる「転がり抵抗」の正体なのです。

ヒステリシス損失の大小は変形する物体の素材によって大きく異なります。バネとしてすぐれた性質をもつ素材はこの損失が非常に小さく、エネルギーの損失が起こりにくいだけでなく発熱による問題も起こしにくくなっています。たとえばハガネやチタンは代表的なすぐれたバネ材料です。

ヒステリシス損失による発熱が現実に感じられる例としては、自動車のタイヤが身近です。パンクしていたり空気が足りなかったりという理由でタイヤの変形量が大きすぎる状態で高速走行すると自動車のタイヤは異常な発熱を起こします。そのままさらに走行するとタイヤが発火して脱落することもあります。


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