3-3) ギヤを使いこなそう

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ギヤの操作

今度はギヤの操作をみていきましょう。ここでは今日の入門ロードバイクの多くについていると思われるシマノ社のコンポーネント(コンポ)の操作レバーを念頭に解説します。シマノ社では“ブレーキ変速一体式操作レバー”のことを「STIレバー」と呼んでいます。この「STI(エスティーアイ)」とは、“シマノ・トータル・インテグレーション”という同社の開発思想の、英語の頭文字からきています。STIレバーは黒いラバーフードのついたレバー基礎部分(ブラケット)から銀色のブレーキレバーが生えていますが、この銀色のレバーの後ろ側に黒い小さなレバーが別に出ています。変速に関してはこの大きな銀色のレバーが“メインレバー”、黒い小さなレバーが“サブレバー”という位置づけになり、二つを操作することでギヤを軽くしたり重くしたりの変速操作を行います。この二本一組になったレバーは外から内向きに(=車体中央に向かって)押し込むことができます。ブレーキ時のレバーを後方に引く動きとは90度ことなる方向です。

同じレバーがブレーキと変速両方のコントロールにかかわるので、“変速するつもりでうっかりブレーキをかけてしまう”という誤操作に注意してください。慣れないうちは変速するときにレバーをブレーキがかかるのとは逆方向へ、つまり“やや前方へあおるように”操作するつもりでいるといいでしょう。

また、ロードバイクに装備されている変速機構はペダルクランクを回してチェーンを動かしていないとき(=チェーンが流れていないとき)にレバーを動かしてしまうと変速ができないばかりか、無理をすると機構自体を痛めてしまう危険もあります。クランクを回さずにレバーを操作するのは原則として控えましょう。

「変速のつもりでうっかりブレーキ」に気を付けよう(ちょっとこわいです)

チェーンが流れていないときに変速操作をするのは控えよう(こわれるかも)

3-2
シマノ製STIレバー “メインレバー(A)”と“サブレバー(B)”

左右一組のSTIレバーのうち、右側が後ろ変速機の操作を担当しています。クランクを回しながら右側のサブレバーを押し込むとギヤが重くなり(つまりクランクがゆっくり回るようになる)、メインレバーを押し込むと逆に軽くなります。メインレバーを押し込む時に一緒にサブレバーが動いても構わないようにできているので、“ギヤを重くするときはサブレバーのみ、軽くする時は二本とも動かす”と覚えるとよいでしょう。後ろ変速は例えば「ティアグラ」級コンポだと10段も切り替えができ、しかも変速一段あたりのギヤ比の変化が少ないので、坂や風の状況変化に応じてギヤ比を微調整するときに使うとよいでしょう。

左側レバー=前側変速は操作が難しい

右の操作をひととおりつかんだら今度は左側です。左側STIレバーは前変速機の操作を担当しています。クランクを回しながら左側のサブレバーを押し込むとギヤが軽くなり(つまりクランクが速く回るようになる)、メインレバーを押し込むと逆に重くなります。操作の方法とギヤ比が変わる方向の組み合わせが右レバーと逆なのです。これは初心者にとっては混乱しそうな状況ですが、ロードバイクの変速機構の仕組み上、現在やむを得ないことなので体で覚えてしまうようにしてください。なお近年登場した高級な電動コンポの場合、シフトスイッチの動作割り当てを乗り手が好きなように変更でき、操作性が進歩しています。

メインレバーを押すときサブレバーも一緒に動かしてしまって構わないというのは右側と一緒です。前側の変速をするときはレバーを内側奥までしっかりと深く押し込んでやる必要があります。さらに変速が完了するまでワンテンポ遅れがあるので変速完了を確かめるまでレバーを押し込み続けておく必要があります。さらに前側の変速では登り坂や加速中など強くペダルを踏み込んでいるときにはそもそも変速ができなかったり、チェーンの脱落を起こしたりする危険がありますので注意が必要です。

これは前後の変速機構の構造の違いによります。ロードバイクの変速機構は大小いくつかあるギヤ歯の間でチェーンが移動し掛けかわることでギヤ比を変更します。このような機構を「外装変速機構」といいます。ペダルクランクについた二枚のギヤ歯(フロントチェーンホイール)と後輪についた約10枚の歯車(カセットスプロケット)はループ状になったチェーンを介してつながっていますので、動いているチェーンには“前後のギヤ歯の上側に掛かり、フロントチェーンホイールに引っ張られながら前方に動いている部分”と、“ギヤ歯の下側に掛かり、フロントチェーンホイールから送り出されながら後方へ動いている部分”とができます。ペダルを踏み込んだときの力は、ペダルからクランク、フロントチェーンホイールへと伝わり、ギヤ歯上側にあたる部分のチェーンを強力に引っ張り、その力が後輪のスプロケット、ホイール、タイヤへと伝わって地面に届きます。前側変速機はまさにこの、自転車を前進させるために強大な力がかかっている部分のチェーンを、いわば“無理やり”別のギヤ歯に掛けかえる仕組みなのです。ペダルを強めに踏み込んでいるときに前側変速の反応がとくに鈍いのにはこうした根本的な原因があります。

(後ろ側の変速では、チェーンホイールに引っ張られる段階を過ぎて張力が下がり、たんに後方へ移動しているだけのチェーンを掛けかえる仕組みなのでペダルを踏む力の影響をはるかに受けにくくなっています)

そのうえ今日のロードバイクでは前側にある大小二枚のギヤ歯の歯数差が10~16もあります。外装変速機構ではチェーンが掛け変わるギヤ歯の歯数差が大きいほど変速が難しく、反応も悪くなります。後ろ側変速だとロードバイクの場合最大でも4程度しか歯数差がありませんのではるかに変速が容易で、この点からも前側変速は操作しにくい傾向になってしまうのです。

前側変速では、a-掛けかえるチェーンの張力が大きく抵抗が大きい、b-歯数差が大きいといった事情からチェーンの掛けかえ動作の反応が鈍く、また不安定になりやすい。そこで変速操作がすこし難しい

前側変速ではギヤ比が大幅に変わるので、後ろ側のように頻繁に微調整をするような使い方には向いていない

そこで、前側変速機は大きな状況の変化に合わせて“基本的な走りのモードを変更するときに使うもの”と考えるのがよいでしょう。たとえばそれまでずっと平坦な道なので前側ギヤ歯は大きいほう(アウターリング)を使って走っていたが、行く手に険しい上り坂が見えてきてこれからしばらくは軽いギヤを中心に使うことになりそうだとします。そうしたらそこでいわば“上り坂モード”への変更として、早めのタイミングで前側ギヤを小さいほう(インナーリング)に落としてしまうのです。実際に上り坂にかかってしまってからではすでにペダルを踏む力が強くなっていて前側変速は難しくなってしまいますから、状況を先読みして早め早めに前側変速を済ませておくというのがポイントです。まだ平坦な場所にいるうちに前側ギヤを軽くしてしまうと、一時的にギヤが軽くなりすぎます。そこで軽くなりすぎた分を補正するのに後ろギヤを2~3段重くなるように操作しましょう。これでだいたいそれまでと同じようなギヤ比を得られます。

このように前後のギヤを組み合わせて操作するテクニックを「クロスシフト」といいます。1980年代以前、まだ変速レバーがハンドルではなくフレームの下のほうについていた時代には“片手で二つのシフトレバーを操ってクロスシフトができること”が熟練ライダーの証のひとつでした。少年だった筆者などもこれに憧れたものです。

1)前側変速は難しいうえギヤ比の変化が大きいので、こまめな操作には向かない

2)そこで、“前=モード変更”、“後=微調整”と役割分担させるとギヤ操作がやりやすい

補記~前側変速が簡単なバイクもある

前側変速がすこし難しいため、女性やジュニアなどとくに手の小さい方たちを主体として、“左側変速レバーは怖いので使わない、使えない”という人がすくなくありません。チェーンが外れてしまう恐れがおもな理由のようです。前側変速が使えれば十分に軽いギヤがついているのに、そのギヤを使えないで重いギヤのまま急な上り坂を走っている人たちもいるのです。これはもったいないし、気の毒なことです。

しかし最近登場した電動式変速メカ(シマノ・Di2ディーアイツーなど)では変速動作をモーターの力が担ってくれるので、変速ボタンを押すことさえできればあとは機械がやってくれます。電動メカの大きな恩恵の一つがここにあります。筆者自身も電動メカにしてから前側変速の頻度がめっきり上がりました。また電動コンポは高級すぎるとしても、2017年初夏から流通し始めた、シマノの新しいアルテグラコンポの前変速機(FD-R8000)、同時にリニューアルした105コンポの前変速機(FD-5801)、最新のデュラエースコンポの変速機などはケーブル駆動(機械式)メカとしてはかなり変速操作が軽快になりました。内部のテコ構造が斬新で効率が良いのです。前側変速が苦手な人は検討の価値ありですよ。


(続く)

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