3-5) 安全なスタート&ストップは“片足たちのり”から

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経験者でも意外にできていない、“安全なスタート&ストップ”

すでにロードバイクに乗っているひとのなかにも“スタートやストップのときに危なっかしくて苦手意識がぬぐえない”というひとがときおりみられます。バランスがよくないのは公道を走るうえでたいへん危険です。ぜひとも“安全、安心なスタート&ストップ”を身につけましょう。

スタートやストップが苦手だという人は、

  • “サドルに座っていないとうまく走れない”
  • “走り出す前にサドルに座りたがる”

という場合が多いのですが、これは体重の前後左右への移動が自由にできず、サドルにたよって荷重配分=姿勢の維持をおこなっているあらわれです。サドルにたよらず自分で積極的に体重を前後左右に移動できるようになりましょう。そうすると見違えるようにバランスが良くなり安定します。

筆者がロードバイク入門者にアドバイスをするときにかならず教えているのが、ここで紹介する“片足たちのり”です。筆者の名付けた“片足たちのり”とは、

  • サドルに腰掛けずペダルのうえに立つ
  • 右足だけでペダルに立ち、ペダルを漕ぐのではなく左足で地面を軽く蹴って進む

というだけの簡単な動きです。この動作がバランスよくできるようになることがロードバイクで安全にスタートやストップをするうえでたいへん役に立ちます。

じょうずな“片足たちのり”のポイントは、

  • 右腿の内側がフレームに押しつけられる感覚を意識する
  • 手のひらに荷重がかかりすぎないよう、荷重をコントロールする

この二点です。

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片足たちのりのようす

すぐサドルに座りたがるのはバランスが悪い証拠

“片足たちのり”を覚えてバランスアップ、苦手意識を克服しよう

“片足たちのり”をやってみよう

じっさいに“片足たちのり”をやってみましょう。靴がペダルに固定される仕組みの“ビンディングペダル”を使うつもりの人も、この練習のときには安全のためにふつうの運動靴をはいたほうがほんとうは安全です。

1- まず右ペダルを一番低い位置に持ってきます。少しでも前側の高い位置にペダルがあると、ペダルに立とうとした拍子にペダルが漕げてしまい自転車が前へ走ってしまいますから、確実に右ペダルが真下になるように心がけてください。

2- つぎに左右のブラケットを握り、ブレーキをかけながらロードバイクをまたいで左右の足でしっかり地面に立ちます。ブレーキをかけることで自転車が前後に動くのを止めることができ、自転車をまたぐ動作が安定します。このときまだサドルに座ってはいけません。

3- 今度は両足の立ち幅をこころもち広めにしてから、右足をペダルに乗せましょう。まだブレーキはかけたままです。立ち幅を広めにすることで体重がしっかり左足に残り、右足をペダルに乗せた拍子に右側へ転倒してしまう危険を減らせます。ペダルに右足を乗せたら体重をすこし右足に移したり左足に戻したりして左右への重心移動を試してみましょう。ハンドルを(ブレーキをかけたまま)左右に振るようにすると重心を移動しやすいです。このとき右へ重心を移動すると右腿内側にフレームが強めに押しつけられ、左に移動するときにはこの押しつけが弱くなるはずです。この右腿内側の感覚をたよりに左右への重心移動をコントロールします。

4- さて今度は“片足たちのり”でほんのすこしだけ走ってみましょう。最初は平坦な地面でおこないます。斜面や荒れた路面ではちょっと難しいのではじめは避けましょう。左右へバランスを崩した場合にそなえて交通量の少ない空き地などを捜します。道路で練習する場合は、遠慮して道路のはじのほうに寄りすぎるとバランスをすこし崩しただけで道のはじにぶつかってしまうので、こころもち余裕をもって道路の中央よりを走るのもポイントです。

周囲の安全を確かめてから、両手のブレーキをゆるめ左足で地面をほんのすこし蹴って自転車を前に走らせます。もちろんまだサドルには座らず右足でペダルに立ったまま、ペダルも漕ぎません。よちよち歩きのようにゆっくり20~30センチ動いたら十分で、すぐに左足を地面につけます。こういう少しずつの動きなら安心・安全に練習ができます。狭い場所で練習していて折り返さなければならないときは必ず足をついている方へ(つまり左側へ)曲がってください。ペダルに足が乗っている方へ(つまり右側へ)小回りするのはバランスをとるのが難しく危ないです。

5- 20~30センチほど安心して走れるようになったらすこしづつ足を地面につける間隔を長くしていきます。4~5メートルほどひと息に走れるようになったら、こんどはハンドルを左右に切ってすこしジグザグに走れるかトライしてみましょう。無駄な力が入らずリラックスしてバランスよくジグザグ走行ができるようになれば“片足たちのり”は完成です。

前後・左右へのバランスがよくなる“片足たちのり”

“片足たちのり”ではお尻がサドルに固定されていないので左右への体重移動がやりやすく、そのためスピードがうんと遅くなったときでも左右へのバランスがとりやすいので安心・安全です。本式に調整されたロードバイクでは漕ぎやすさを重視してサドルが地面からかなり高い位置になるため、サドルに座ったままで地面に足をつこうとすると無理で不安定な姿勢になりやすいので、その危険を避けられるという利点もあります。

“片足たちのり”は、ある程度慣れてきてからも停車するときはなるべく使うようにしましょう。なおスタートについては、十分に慣れてきたら“片足たちのり”を省いて最初から右ペダルを踏み込んで走りだすスタイルがむしろ一般的で、バランスをきちんと取れさえすればこれでかまいません。

ペダルを漕いで本式に走り出すときには、下の3ステップを踏みます。

  1. まず“片足たちのり”で走り出し、
  2. ついでサドルに座り、
  3. 最後に左足もペダルに乗せて漕ぎだしてスピードに乗る

もっとも人によっては違った順番、つまり、

  1. まず“片足たちのり”で走り出し、
  2. ついで左足もペダルに乗せて立ちこぎ体勢になり(左ペダルは高い位置にあるのでちょっと足を乗せにくいはずですが)、
  3. 最後にサドルに座り、漕ぎだしてスピードに乗る

というほうがしっくりくることもあるかもしれません。どちらでも自分がやりやすいほうでいいでしょう。

停車するときには次のようなステップを踏みます。

  1. まずサドルに座ったまま早歩き程度の速度まで減速、
  2. 速度が落ちるにつれ左右へのバランスが不安定になってくるので、バランスをとりにくくなるほど決定的に減速してしまう前に、やや早めに左足をペダルから離して左脚をブランとさせ、
  3. すると右ペダルが自重で真下に下がるので、サドルから降りて右足一本でペダルに立ちます(片足立ちになるとお尻がサドルから離れて左右へのバランスがとりやすくなるとともに左足がフリーになって地面に足を着ける準備が整います)。
  4. さらに十分に速度を落としてから左足を地面について止まりましょう。

減速しきらないうちに左足をつこうとすると“たたらを踏む”ことになってバランスをくずしやすいので危険です。余裕をもって十分に減速しましょう。

このスタートストップのやり方は、地面が傾斜していてバランスが難しいとか交通量が多くてふらつくと危ないとかいった難しい局面ほど役に立つので、ぜひともしっかり身につけてください。ただし非常に険しい登り坂や不整地でのスタートではこのやり方がうまくいかないこともあります。そういう場合はあえてサドルに座ったままスタートするなど別の技術もありますが、初心者のうちは無理をしないで走りやすい場所まで自転車を押し歩きして移動することも選択のうちに入れておきましょう。

“片足たちのり”を教えていると、“ものすごく手のひらが疲れる”とか“肩がこる”、“ハンドル操作がぎこちなくて危なっかしい”などといった不具合を訴える人がかなりいます。これはハンドルに荷重がかかりすぎているためで、前後への体重移動がうまくコントロールできていません。ペダルに立っている右足にしっかり体重を預けることができるようになればそのぶんハンドルへの荷重は抜けていきます。ペダルにきちんと体重をかけることのできる動きかたが前提となって、そのうえで体の重心を前後に移動させるコントロールが可能になるのです。

この前後への体重移動を覚えるには、短い距離で左足を頻繁に地面につけ、うんとゆっくりした余裕のある“片足たちのり”をしながら体重が右足に乗る感覚を感じるようにしてみてください。それでもうまくいかない場合はいったん左足を地面につけて完全に立ち止まり、体重が左足に乗ったり右足に乗ったりと左右に移動するする感覚を掴むようにしてみましょう。速度を落とせば難しくてできなかったこともたやすくなることがあります。いわば“急がば回れ”です。

“片足たちのり”で手のひらやハンドル操作に問題を感じたら、体重の前後移動に問題あり

“片足たちのり”から“立ち漕ぎ”へ

“片足たちのり”をマスターすることにはもうひとつ別の理由があります。いわゆる“立ち漕ぎ”がうまくなるために欠かせない技術が身につくのです。立ち漕ぎは別名「スタンディング」または「ダンシング」とも呼ばれ、サドルからお尻を浮かせ、左右のペダルの上に立ち上がった状態でペダルを漕ぐ漕ぎ方をいいます。立ち漕ぎでは踏みおろしているペダルに体重の大部分をかけて大きな力を出すことができる、座っているときと違った姿勢になることで筋肉の使い方が変わり疲労が分散されるなどのメリットがあります。しかし稼働する筋肉が多くなるためエネルギー効率が悪くなる、技術不足のために体の重心があちこちへ動きすぎるとエネルギーの無駄が起こる、瞬間的に大きな力を発揮できる反面として筋肉に負担がかかることがあるといったデメリットもあるため、座って漕ぐ漕ぎ方(シッティング)との使い分けが重要です。

この立ち漕ぎをうまくおこなうために重要なポイントのひとつが、ペダルのうえに立ち上がった状態でハンドルへの荷重を思い通りに調整すること、つまり前後への体重移動なのです。“片足たちのり”が無理なくできる人はこの前後への荷重配分の調整ができるようになっていますので立ち漕ぎをスムーズに身につけることができます。逆に“片足たちのり”が自由にできないうちはうまく立ち漕ぎすることはまずおぼつかないでしょう。

立ち漕ぎが苦手な人は、“片足たちのり”を身につけて苦手意識を克服しよう


(続く)

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