最適クランク長をみつけて快適&軽快ペダリングを

  • 「サドル交換や調整、いろいろ試したけれどお尻の痛みがなくせない」
  • 「ペダル回転数(ケイデンス)を上げられない」
  • 「お尻が跳ねてしまって止められない」

こういった問題、もしかして「クランク長さ」があなたに合っていないせいかもしれませんよ。

(目次)

  1. クランク長さとは
  2. 適正クランク長について
  3. 小柄な人は要注意!「長すぎるクランク問題」
  4. たとえでいうと“クランク長=歩幅”?
  5. 当店の「クランクテストサービス」ほか
  6. 製品情報

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クランク長さとは

クランク長さとはペダルクランクアーム(上の写真の黄色い枠内)の長さをいい、クランクの回転軸中心からペダル取付穴中心までの長さを表示します。

バイクにフレームサイズがあるようにクランク長さにもいくつかの種類があります。上の写真の左は172.5mm、右は140mmです。

メーカー完成車のロードバイクを買うと、おおむね170mmのクランクがついています。もっとも適応身長165cm未満あたりの小さめサイズのバイクだと165mmのものが、適応身長175cmを超えるぐらいの大きめサイズだと172.5mmないし175mmのものがついていることもあります。これより長いものや短いものが搭載されていることはまずありません。(ジュニア用バイクでごく短いクランクが用意されている例はあります)

適正クランク長について

適正なクランク長さについての決定版となる基準は定まっているとはいえません。まず技術的な背景を概観しましょう。

まず出所不明ですが一般的な知識として“クランク長は身長の十分の一が適切”とされています。この考え方はおそくとも1970年代までには確立していたようです(ここでは“十分の一ルール”と呼びます)。

つぎにこれを前提として“クランクが長いほど有利”という考え方が長いこと存在していました。少し前のプロ選手の発言などにも“トレーニングの結果それまでよりも長いクランクを使いこなせるようになった”というような記述があります(「ベルナール・イノーのロードレース」収録のジャック・アンクティル談話)。この根拠として“長いクランクのほうがテコの原理で大きな力を出せるので有利”という説明が良く聞かれます。

しかし筆者の考えではそれは誤解です。自転車を速く強く走らせるのに必要なのは速度を考慮しない「力」の向上ではなく、「力x速さ」であらわされる「パワー」です。クランクが長くなるとペダルを踏む力は少なくて済むようになりますが、そのぶん長い軌道上でペダルを動かさなければなりません。一瞬の踏み込みだけなら力が少なくて済むので利点もありえますが、一定時間に発揮する仕事という点でみるならばクランク長さは必要な仕事の多寡に影響しません。長いクランクでも短いクランクでも乗り手が発揮しなければならないパワー(仕事)は結局同じ、つまり“クランクが長いほど有利”とはいえないはずなのです。

最近の研究もクランクを長めにすることそれ自体にはメリットはないということを示唆しています(ジム・マーティン他、2001年。英語。別ウィンドウにて)。2013年ごろ以降各社がいっせいに「短めのクランクのメリット」について検討を行ったのはこの研究結果を踏まえたものです。(記事末尾の参考資料を参照)

つぎに適正クランク長を判定するために、長めのクランクと短めのクランク、それぞれの得失を整理してみましょう。〇はメリット、×はデメリットを表します。ご自分の経験に当てはまる項目がないでしょうか。

長めのクランク

  • 〇:関節(おもに股関節だが足関節などの柔軟性も影響するらしい)を自然な可動域いっぱいまで動かせるので、のびのびとペダリングすることができる(身体能力を使い尽くせている)。
  • 〇:パワーが一定条件であればケイデンスを下げられる(クランクを長くした割合に反比例する)。そのため心肺系への負担が軽くなる(余地がある)。
  • 〇:テコの効果で一瞬のダッシュの“かかり”がよい(理論上)。
  • ×:乗り手にとって自然な限界を超えた可動域で関節を動かすことを余儀なくされる。その結果、上死点でペダルが引っ掛かる、上死点を越えようとして膝を外に逃がすような動作に陥り膝の軌道が乱れる、上死点を越えようとして同側の股関節=骨盤自体を引き上げて逃がすような動作に陥り骨盤が安定しない、その結果サドル上で尻が安定しないためサドル上で尻の痛み(打撲・摩擦などによる)を誘発する、などの弊害がおこる。

短めのクランク

  • 〇:乗り手にとってより自然な可動域で関節を動かすことが可能になる。その結果、上死点でペダルが引っ掛かる、上死点を越えようとして膝を外に逃がすような動作に陥り膝の軌道が乱れる、上死点を越えようとして同側の股関節=骨盤自体を引き上げて逃がすような動作に陥り骨盤が安定しない、その結果サドル上で尻が安定しないためサドル上で尻の痛み(打撲・摩擦などによる)を誘発する、などの弊害を防止することができる。
  • ×:関節を自然な可動域いっぱいまで動かせなくなり、きゅうくつなペダリングを強いられる(こどもの自転車をこいだような状態)、あるいは身体能力を使い尽くせていないもったいない状態になる。
  • ×:パワーが一定条件であればケイデンスを上げなければならない(クランクを短くした割合に反比例する)。そのため心肺系への負担が重くなる(余地がある)。
  • ×:テコの効果が弱くなるので一瞬のダッシュの“かかり”が悪くなる(理論上)。

上のような得失の整理について筆者の経験からいくつか付け加えられることがあります。

筆者の経験から

  • 自分のバイクについて。筆者の身長は168cm。20年以上もなじんだ170mmのクランクをアメリカの有名フィッターのアドバイスで数年前に短くしました。いくつか試して165mmにしたのですがたいへん走りやすくなりました。具体的には、バイクが揺れなくなった(車載カメラの動画が安定した)、回しやすくなったために自然にケイデンスが上がりこれまでと同じバイクスピードをよりラクに維持できるようになった、尻が安定しペダリング動作に集中しやすくなった、などおおくの利点がありました。
  • 165mmに決めたときは股関節の可動性が低かったのですが(前屈で指が地面に届かなかった)、その後ストレッチの努力で股関節の柔軟性が増した(前屈で手のひらが地面につくようになった)そのあともクランクが短すぎて損をしている感じはとくに感じません(ときどき170mmのバイクに乗るが165mmのほうが快適)。おそらくやや短すぎのクランクはやや長すぎのクランクに比べれば弊害が少ないのだろうと感じます。
  • そもそもダッシュしないので短いクランクでダッシュのかかりが悪いかどうかは自分では不明。

小柄な人は要注意!「長すぎるクランク問題」

これまでみてきた事情からすると、おもに小柄な人たちが長すぎるクランクで大きく不都合を感じているであろうと察せられます。

こんにちブリヂストンアンカーをはじめ各社が小柄な人でも乗れるロードバイクを作ってくれています。それらのバイクはフレームそのものは素晴らしいのですが、残念なことについているクランクは最短でも165mmにとどまるのがほとんどなのです。これには主要なクランクメーカーがこれより短いクランクを(手ごろな価格で)発売していないという背景事情があります。しかしこれではクランクが長すぎになるリスクが非常に高いと評せざるを得ません。

当店のバイクフィッティングの現場では、うえでみた“十分の一ルール”を原則としてクランク長さの上限ととらえています。そして身長165cm未満で腰が安定せずペダリングが乱れている人がいると現在よりも短いクランクを試させてあげるようにしています。そうするとほぼ例外なく“漕ぎやすくなった”、“腰が安定した”という感想が得られます。例外として155cmを下回るライダーの場合、素直に十分の一にして155mmのクランクをつけるとちょっときゅうくつに感じるという事例が数件みられました。そういうときはライダーの好みを優先して“十分の一”を少し上回る長さのクランクを使用します。

たとえでいうと“クランク長=歩幅”?

このような経験から、筆者はクランク長は歩幅のようなものだと考えています。

歩いたり走ったりするときの歩幅、みなさんはどうしていますか?ほとんどの人はとくになにも考えずに運動しているでしょう。つぎに階段や庭園の飛び石などで身体にあわない長い歩幅を強いられた時にどう感じるでしょうか。ひどく動きづらい、不自然な動きをさせられているのを感じると思います。これらはつまり普段はカラダがひとりでにもっとも動きやすい歩幅をきめて動いているということです。そして筆者は長すぎるクランクは長い歩幅と同じような動きづらさを生んでいるのではないかと思うのです。

そこで筆者からいくつかのおすすめがあります。

  1. 【体験してみてください】うえで見てきたような不具合にすこしでも心当たりがある人はぜひ自分で試してみてください。その歩幅、そのクランク長さが自分自身にとってどう感じられるかがわかるのは世界で自分だけです。
  2. 【  推測:ピッチ走法→みじかいクランク?】歩幅に関して「ピッチ走法」「ストライド走法」という考え方があります。歩幅を小さく歩数を大きめにするほうが調子よく動ける人とその反対の人とがいるのです。自転車のクランクについても同じような好み・傾向があるかもしれません。ランニングでピッチ走法が得意な人はロードバイクでも短めのクランクがあっているかもしれないのです。これも自分でぜひ試してみてください。
  3. 【上級者向け】エアロ効果を求めて上半身を下げるためにクランクを短くするという方法論が2013年ごろからトライアスロン界を中心に現れてきています。これもタイム短縮を真剣に考える競技者であれば考慮に値することだと思います。末尾掲載の英語の各ブログはいずれもこの観点からの考察を主題にしています。

当店の「クランクテストサービス」ほか

さまざまなクランク長さを試せる機会というのは、じつはかなりまれです。レースに出ているような人でもクランク長さを自分で比較体験して決めたという人は明らかに少数派のはずです。しかしクランク長さを自分で体験してきめることはひじょうに重要です。そこで当店では「クランクテストサービス」というサービスを行っています。

当店記事「クランクテストサービス」(別ウィンドウにて)

当店では「店内体験」と「クランク貸出」の2パターンでクランク長の体験をサポートしています。「店内体験」は実時間工賃にて(10分あたり千円税込)、「クランク貸し出し」は作業の実時間工賃プラスレンタル料千円で提供しています。ぜひご利用ください。

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(貸出用クランクの一部)

遠方で当店へお越しになれないという方にはうってつけの製品を販売してくださるショップがあります。

トライアスロンショップ シロモト / スライド クランク

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【画像は発売元HPより】

税込み41,000円で150~185mm というとてつもない範囲でクランク長の変更ができます。BBの規格がやや特殊なのですが(GXPの24/22mm)、JISねじ切りの専用BBが付属します。シロモトさんにぜひご注文下さい(なお当店からも販売は可能)。

このスライドクランクは当店の自作フィッティングバイク「ハイロード4号」(旧ブログ。別ウィンドウにて)にも搭載して使用しています(下写真)。

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製品情報

160mm以下の短いクランクが自分に合うとわかったとして、そんな短いクランクはどのメーカーが作っているのか?と思われるかもしれませんが、ごく少数のこころあるメーカーがラインナップを持っています。その一部を紹介しましょう。

1)ディズナ ラ・クランクシリーズ

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クランクセットで23,000円税込~。クランク長さはなんと140mm~5mm刻みでそろっており、シルバーとブラックが選べます。さらにここでの主題からは外れますがインナー25T~という非常に軽いギヤを組み合わせることも可能で、非力なライダー向けサイクリングバイクをあつらえるのに最適です。シマノ規格のBBで使用できます。

ディズナは東京サンエス(別ウィンドウにて)という老舗の問屋さんのオリジナルブランドで、ほかにも日本人の体格について独自の考察を巡らせた個性的なアイテムがたくさんあります。

2)スギノエンジニアリングの各製品

スギノの多くのクランクセットは最短160mmまでそろっています。そのうえ「マイティミニョン」というモデルは最短140mmまであります。ややクラシックなデザイン傾向が魅力のひとつでもあります。

スギノエンジニアリング ホームページ(別ウィンドウにて)

【まとめ】

クランク長さはひじょうに大切。少しでも気になるところがあったら試してみよう

短いクランクは種類が限られるが、ちゃんと手に入ります


参考資料(すべて別ウィンドウにて)